お庭ばなし

本当にあった庭の思い出。

狸のリアル狸寝入りを観察した庭

都会でも狸って出るんですよ。

東京ってコンクリートばっかりなイメージだし

その通りなんですけど

結構ぜいたくに森が残ってまして

そこに生き物が集中してる感があります。

 

狸だってそういうところにはいます。

うっかり人間に見つかる子もいて、私も見たことがあります。

 

でも九州は熊本の下の方にあった我が家の庭の狸は

人前に姿を現すなんてことしないザ・野生でした。

竹やぶや林で走り回っていた私でしたが、野生の狸は絶対昼間出てきませんでした。

だから狸なんて、いないものだという感じで生活していました。

 

でもある日、飼っていたにわとりが毎晩一匹ずつ殺されてしまうようになりました。

羽と血が小屋の一角に飛び散り、必死で抵抗した跡があったんです。

小屋の一部を食い破って侵入した狸によるものと判明。

父、激怒。

 

「ここ、罠しかけたからな。絶対入るなよ」

父が怖い声でいうので、さすがの私もこれはいかん、と

しばらく小屋の方にいかない事にしました。

狸は賢いので、そう簡単に罠にかかってくれません。

そしてやられてしまうニワトリ。

 

背中をまるめて罠を仕掛け直す父の後ろ姿には

絶対捕まえてやる、という執念を感じました。

 

そうはいっても普段、ニワトリに対して興味もなさそうな父ですが

無残に食い散らかしていく侵入者に対しては

ハッとするような怒りを抱いていました。

これはなんだろう。男性の本能なんだろうか。

 

もう、小屋を綺麗に直してそれでいいじゃないか、

何も気にせず庭を走り回りたい私はそう思っていましたが

けっこう父は粘ってました。

 

そんな中、やっと狸が罠にかかりました。

「おい来てみろ!捕まえたぞ!」

嬉しそうな父の声。

 

庭に出ると、黒い獣が横たわっています。

ちょっと怖い。

 

父はいつもの猫背でしゃがんでニタっと笑って言うのです。

「大丈夫だから。そっとこっちこい」

父の隣に行こうと、遠回りで近づいていったその時。

なんと猫が寄ってきました。

 

狸の顔も身体も真っ黒で、どこが目か生きているのかもわかりませんでしたが

「よく見てろ。たまに目を開けるぞ」

と父が楽しそうに言うので、父の近くにしゃがみこみながら

狸の顔辺りを見ていました。

でも目は開けていないようです。

 

そんなとき、飼っていた猫が何かを察して近寄ってきたのです。

おそるおそる、遠巻きに匂いを嗅ぎながら近づく猫。

猫の倍はあろうかという狸は横たわったまま。

ドキドキして見ていたら

パチっと狸が目を開けました。

しかも片目だけ。

 

それまで狸はぐったりと横たわり、

足には罠によって傷がつけられており、

黒くて見えないけどおそらくそこは出血しているようでべったりとしていました。

もう息も絶え絶えなんだろう、とその時は思っていました。

 

しかし猫が近づくと、パチ、パチ、としっかりまぶただけは動かして

猫との距離を確認するのです。

私はドキドキしました。

 

猫は狸を食べるんだろうか。

それとも狸のあの大きな口でがぶっと抵抗するんだろうか。

なんだか怖くなって私は家に入りました。

その日、父が言うには

狸は隙を見てがばっと立ち上がりさっさと逃げていってしまったそうです。

「え?いいの?」あんなに何日も罠をやり直していたことを見ていた私は

父にそう聴きました。

 

父は意外なことを言いました。

「いいんだよ。痛い目にあったから当分こないだろ」と。

狸はふだん、悪さをしない。ニワトリを殺したのはきっと子どもがいるからだ、とも言っていました。

うちのニワトリ数匹は狸に食べられてしまい、その分の制裁は狸が罠にかかって怪我をしたことで済んだようです。

当時は、ニワトリが可哀そうだったので

狸を捕まえたらやっつけて欲しいと思っていた私は

父の行動がいまいち理解できませんでした。

 

今になって思うと

父は野生の動物と共生したかったんだとわかります。

捕まえてすぐ殺さず、逃がさず、あえて子ども達の見せ物にしたのも、

ここは怖いところだぞ、と思い知らせるための行動だったのかもしれません。

いや、父のことだからただ面白がってただけかもしれませんが。

確かにその後、狸の襲来はやみました。

深夜にニワトリ小屋からニワトリの悲鳴が聞こえることもなく、

ほっとしたのを覚えています。

 

ちなみに敷地内の別の建物にじいちゃんとばーちゃんが住んでいたのですが

その2人に狸を見せると狸汁にされて皮は毛皮にされるぞ、あ~可哀そうと父は笑って言っていました。

 

数年後、おそらく別の狸がまたニワトリを狙って庭に侵入し

こんどはじーちゃんにつかまってしまいました。

狸は綺麗に皮をはがされて2階のベランダに洗濯物のようにつるされて、

風でくるくると回っていました。

それを見た時は心底びっくりしました。

じいちゃんとばあちゃんは狸を食べたのかな。やっぱり狸汁かな。

でも怖くて聞けませんでした。

 

あれ以来、何度帰省しても狸には合いません。

もううちの近所にはいないのかもしれませんね。